日本には香道といったお香の伝統的な楽しみ方があります。
しかし、香りを楽しむ「香道」は、もともと中国から伝わったものです。
では中国のお香の文化はどのように生まれたのでしょうか?
ここでは古代中国にお香が広まるまでを簡単にまとめると共に、面白く可愛らしいドイツの人形を使ったお香の楽しみ方や、古い歴史を感じさせてくれるチベットの伝統的なお香について、紹介します。
中国でのお香の歴史とは!?
古代の中国では、エジプトやギリシャ・ローマなどと異なり、一般の人がハーブや香料を大量に使うことはなかったようです。
古代中国における、香料の調合や使用の方法について、それほど多くの記録が残っているわけではありません。
白ヨモギ、ヨモギ、サンショウ、ノコギリソウ、甘草、芍薬(シャクヤク)といったハーブや香草を、食用や薬用などに使用していたことはわかっています。
しかしやがて周(紀元前1046年頃~紀元前256年)の頃になると、中央アジア経由でヘンナやハス、蘭、ジャスミンなど、香りの良い植物が中国へ伝わって来るようになります。
さらに周の後期に入って春秋時代(紀元前770年~紀元前403年)になると、沈香、麝香、肉桂といった香料が、上流階級の人々の間で化粧品として愛用されるようになります。
中国で、線香や薫香などのお香が本格的に使われるようになったのは、六朝時代(3世紀~6世紀ごろ)にはいってからです。
インドから仏教が伝来すると同時に、大量の香料が入ってきたためです。
そして香料はインドからだけでなく、ペルシャからも、やって来るようになります。
しかし、特権階級の人は別として、一般庶民の間には、香りを楽しむ文化というものは、なかなか定着しなかったようです。
「香り」は古代中国の一般庶民にとって、ぜいたく品のひとつだったのでしょうか。
それを裏付けるかのように、美しい少女が生まれると、玉の輿に乗せるために「体身香」という香料の丸薬を飲ませ、体から香気を発するように育てたという話があります。
この体身香は世界三大美女のひとりといわれた、唐の時代の楊貴妃(719年〜 756年)も飲んでおり、彼女はさらに、全身にムスク系の香料を塗っていたのだとか。
香料は中国に人々にとって、非常に魅力的な商品で、時代が宋(960年〜1279年)から元(1271年〜1368年)に移るころには輸入品の大部分が香料や薬品類になったようです。
そしてこの頃になると、貴族などの特権階級だけでなく、一般庶民も香りを楽しむことができるようになりました。
ドイツにはお香の煙出しの人形がある!?
ドイツにも、日本のコーン型と似た形のお香(Räucherkerzchen)があります。
このお香にも、さまざまな香りがあって、中にはグリューワイン( Glühwein、ワインと香辛料を温めて作る、寒い季節には欠かせないドイツの飲み物)の香りのするお香まであるそうです。
とはいっても、使い心地や焚いた時の香りは、日本のものと極端に違う、ということはありません。
成分も、木炭・じゃがいもの粉・ヨーロッパブナの木の粉といったドイツらしい雰囲気の材料に、日本でもおなじみの乳香や白檀や伽羅などの香料を練り合わせて作るそうです。
グリューワインの香りをどんな香料で再現するのかはわかりませんが…。
しかしこのドイツ産のコーン型のお香、日本のように香皿に置いて燃やして楽しむものではありません。
クリスマスシーズンのお楽しみとして、煙出し人形(Rauchermann、ロイヒャーマン)の中に仕込んで、焚くためのものです。
煙出し人形は、丸い口から白い煙を出す木製の人形です。
この人形はお腹のところで上下ふたつに分かれるのですが、下の部分に香皿が組み込まれていて、お香が焚けるようになっています。
香皿に専用のお香を置いて、火を点けてから上の部分を戻すと、口からもくもくとお香の煙が出る仕組みになっています。
人形のほとんどはさまざまな職業の庶民の姿がモチーフになっていますが、ほとんどが口にパイプをくわえています。
1850年頃にザクセン州エルツ山脈地方の村・ザイフェンでこの人形がはじめて作られたころはこの人形は「ハイプをくゆらすトルコ人」の姿をしていたそうで、そのころの伝統が今も残っているのかもしれません。
チベットのお香の臭いの特徴や効果とは!?
チベット文化圏にも、独特なお香の文化があります。
チベットのお香には1,000年を超える歴史があり、基本的なスタイルはほとんど変わっていません。
チベットのお香は天然の素材だけで作られ、チベットの伝統医学の体系と深く結びついて発達してきました。
その結果、チベットのお香には30種類以上のチベットの薬草が積極的に使用されていて、リラックスや疲労回復、免疫力強化に役立つといわれています。
チベットのお香には、人工的な着色料が使われることはありません。
そのためチベットのお香には、素材本来の色が表面にそのまま表れます。
茶褐色のお香が中心ですが、成分によっては赤や緑色に見える場合もあります。
日本の線香などでしばしば見られるような、鮮やかな緑色のものはありません。
また、お香には原料をつなぎ合わせるための「つなぎ」が使用されます。
日本の場合なら、主にタブの木の粉(タブ粉)を使います。
チベットのお香の場合、このつなぎの配料合料を最小限に抑えられているため、でき上がりはどうしてももろくなります。
そのため、チベットのお香は、日本の細いがしっかりしたお香(線香など)と比べると、どうしても太くて折れやすくなってしまいます。
チベットのお香の香りは独特です。
ハーブ系やフローラル系の華やかな香りではありません。
日本の伝統的なお香とも異なります。
チベットのお香は漢方薬のような香りがします。
人によっては抵抗感を感じる人もいるかもしれませんが、逆にこの香りにはまってしまう人もいるようです。
まとめ
中国にお香が広まるまでの歴史、ドイツのユニークなお香立て?を兼ねたロイヒャーマン、そして医療と深く結びついたチベットの伝統的なお香。
お香にまつわる世界の話題を3つ、簡単に紹介しました。
どの地域でも、それぞれの文化と結びついたユニークな形で、お香の物語が語られているな、と感心します。